セルフコンパッション―自分にやさしくする力

私たちは、誰かを思いやることには慣れていても、自分自身にはつい厳しくなりがちです。失敗した時、うまくいかない時、「なんでこんなこともできないんだろう」と自分を責めていませんか? けれども、その厳しさは、本当に自分を成長させてくれるのでしょうか。
セルフコンパッションとは、「自分への思いやり」を意味します。心理学者クリスティン・ネフは、これを三つの柱で説明しています。
第一に、自分にやさしく接する「自己への優しさ」です。失敗や困難に直面したとき、自分を批判するのではなく、優しく受け入れることを重視します。他人に対する思いやりと同じように、自分にもその優しさを向けることが重要です。
第二に、苦しみは誰にでも起こると理解する「共通の人間性」です。苦しみや失敗は誰にでもある、という普遍的な視点を持つことです。「自分だけがこんなに苦しい」と感じる孤独感を和らげ、他人とのつながりを認識する助けになります。
そして第三に、自分の感情や思考を客観的に観察する「マインドフルネス」です。自分の感情や経験を否定せず、ありのままに受け止めます。過去の後悔や未来の不安にとらわれず、今ここにある気持ちを穏やかに観察します。
私たちはコーチングの現場でも、クライアントが自分に厳しすぎることで変化が止まっている場面をよく見かけます。「まだ足りない」「もっと頑張らなきゃ」と追い込みすぎると、心はどんどん疲弊していきます。そんなとき、セルフコンパッションの視点は、大きな転機をもたらしてくれます。
たとえば、失敗した時に「こんなときもあるよね」「今はつらいけど、きっと学びになる」と声をかけてみる。あるいは、「私だけじゃない、多くの人が同じような経験をしている」と思い出してみる。それだけで、心が少し緩み、次に進む力が湧いてきます。
セルフコンパッションは、甘えではなく、自分に対する深い理解と敬意です。コーチングにおいても、自己受容が進むことで、本来持っている可能性が自然と開かれていきます。やさしさは、前に進むためのエネルギーですね。
今日から、ほんの少しでも自分にやさしくしてみませんか? それは、人生を変える第一歩かもしれません。