セルフコンパッションをチームに広げる―職場で使える5つの対話シナリオ

職場のやりとりにもセルフ・コンパッション(自己への思いやり)の視点を取り入れると、個々の安心感が広がり、チーム全体の創造性や生産性が劇的に高まります。今回は、よくある職場シーンをベースにした5つの“対話シナリオ”と、それぞれのファシリテーションのヒントをご紹介します。
1.定例ミーティングのオープニングで「安心の場」をつくる
シチュエーション: 毎週定例で雑談タイムがないまま本題に突入し、メンバーが緊張している場面
対話例: リーダー「みなさん、今日は先週の振り返りと今週の進め方を話す前に、ひとことずつ“今の自分の気分”を教えてもらえますか?」
A さん「ちょっとドキドキしています…先週、スケジュール遅れちゃったので」
リーダー「ドキドキ感、大事なサインですよね。自分にプレッシャーをかけた分、期待も高いのかもしれません。ここは安心して話せる場ですから、遠慮せず今の思いをシェアしてくださいね。」
ファシリテーション・ヒント💡
・まずリーダー自身が「私は今、緊張感を感じています」と自己開示すると、メンバーも続けやすい。
・「大丈夫?」ではなく、「どんな気持ち?」と感情ラベリング+オープン質問で。
2.1on1フィードバックで「失敗の後押し」をする
シチュエーション: 新しい施策が目標に届かず、部下が自信を失っている場面
対話例: 上司「前回の件、思ったような成果が出なかったね。どう感じてる?」
部下「自分のやり方が未熟だったんじゃないかと、自責の念が…」
上司「今、“未熟”と感じているんだよね。そのストレスを乗り越えようとするパワーも同時に見えているよ。次にどこを伸ばしたいですか?」
【ここでのポイント】部下が未熟だと感じていることを承認しています。すぐに「そんなことはないよ。」とか「未熟じゃないよ。」と返さずに、部下の気持ちをいったん受け留めることが大切です。そのうえで、新たな強みを上書き(リフレーミング)してあげましょう。
ファシリテーション・ヒント💡
・相手の自己否定を受け止めつつ、「勇気ある一歩」として強みをリフレーミング
・具体的な改善点より先に、相手の挑戦を全肯定する安心感を最優先に。
3.プロジェクト締め切り前の「ストレスケア・チェックイン」
シチュエーション: 繁忙期でタスクが山積み。誰もが焦りを抱えている場面。
対話例: リーダー「みんな、今の作業量を1〜5で表すとどれくらいだと思う?」
B さん「正直、5に近いです。でも、やり遂げたい気持ちもあります」
リーダー「“5”は大きなプレッシャーだよね。でも“やり遂げたい”という熱量もある。両方を抱えながら進めているんだね。この高い期待値を、チームでどう支え合おうか?」「・・・・・」
ファシリテーション・ヒント💡
・数値化(セルフ・スコアリング)で感情を可視化し、共感的フィードバックで受け止める
・「どう支え合う?」というオープンクエスチョンと、意図的沈黙でメンバーのアイデアを促す
4.部署横断ミーティングでの「共創の芽生え」
シチュエーション: 部署をまたぐ打ち合わせで、立場のちがいから本音が出にくい場面。
対話例:ファシリテーター「今、お互いどんなイメージを持ってこのプロジェクトを見ていますか?Aさんは“海”のように広がりを感じるとおっしゃっていましたが…」
A さん「はい、この施策には可能性が無限に広がる感覚があります」
ファシリテーター「“海”のどんな色や波の状態を思い浮かべますか?」
B さん「私は、穏やかな青と小さなうねりを感じます」
ファシリテーター「そのイメージ、とても豊かですね。私自身、“その青さ”がチームの可能性を象徴していると思いました」
ファシリテーション・ヒント💡
・メタファーを深掘りし、チーム各自の価値観を表明させる
・コーチ自身もリアルタイムの所感を自己開示し、“共同創造”の場を演出する
5.成果報告会での「」祝福と次への勇気づけ
シチュエーション: 四半期の振り返りで、結果は出たが更なるチャレンジが必要な場面。
対話例:リーダー「この3ヶ月、みなさん本当に頑張ってくれました。特にCさんの〇〇改善案は斬新でしたね。どうやってそのアイデアが浮かんだんですか?」
C さん「最初は乗り気じゃなかったんですが、自分を信じて声に出してみたんです」
リーダー「“自分を信じて声に出した”その一歩に、私は大きな勇気を感じました。次はどんな挑戦をしてみたいですか?」
ファシリテーション・ヒント💡
・成果以上に「その過程」を丁寧にラベリングして称賛する
・次への問いかけで自発的な目標設定を促す
まとめ
これら5つのシナリオを繰り返し実践すると、小さな安心体験がチーム文化として根づきます。
対話の都度、
・自分(リーダー)の感情ラベリング+共感的フィードバック
・オープンクエスチョン+意図的沈黙
・メタファー探求+自己開示
を意識し、セッション後に「言葉選び」「タイミング」の振り返りを重ねてみてください。
セルフ・コンパッションを軸にした対話術は職場だけでなく、家庭や友人関係にも応用可能です。
今日からぜひ試し、チームの空気の変化を記録してみませんか。最後までお読みいただきありがとうございました。